2.恋する乙女は観光タワー

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 対してシローも一人暮らしだが、シローの通う高校まではさらに五駅、電車に乗り続けなければならない。毎日通うことを考えると、もう少し学校に近い場所に住んだ方がいいと母や姉は言ったが、あの駅を選んだのはシロー自身だった。  おそらく近くに大きな大学がいくつかあるせいで、この辺りで学生向けの安いアパートと言えばあの駅、というくらいあの駅付近は家賃の平均値が低かったのだ。  加えて駅近くにはいいスーパーやコンビニが揃い、シローのバイト先のような定食屋もある。定期代を計算に入れても、無理に学校の近場で部屋を探すよりずっと条件がよかったのである。  たつみに尋ねられるがままシローがぽつぽつと答えたのは、そんなようなことだった。何かおもしろいことがあっただろうか。話した内容をぼんやりと反芻しながら外を眺めていると、気付けば高校まであと二駅になっていた。  ということは、 「おはよーシロぅおほほぉ……」 「リンお前、人の名前とあくびを一緒にすんなよな」  だって寝たの三時だし、と目元を擦りながら電車に乗り込んできたのは、長友凛というシローのクラスメイトである。中学一年から高校二年に至るまで同じクラスという腐れ縁で、シローの数少ない女友達の一人だ。 「目、擦ったらまたメイク落ちるんじゃないのか」     
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