2.恋する乙女は観光タワー

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 シローが呆れ半分に言うと、リンはまたあくびをしながら「落ちるからアイメイクは薄くした」と答えた。女子高生としてそういう解決方法でいいのか甚だ疑問だが、こういうリンだからこその腐れ縁なのかもしれない。  付き合ってしまえとかなんとか、友人たちに言われたこともあったが、シローとリンにとってはそんなものは笑い話だ。  友情というほどのものがあるかは知らないけれど、少なくとも恋愛感情だとか、それに近しいような感情は抱いたことがない。シローから見ると、どちらかといえばもう一人の姉、という感じだ。いや、シローの方が誕生日が早いから妹だろうか。 「ていうかシローが電車の中で立ってるなんて珍しいね? いつもすぐ座るじゃん、端っこの席」  今も空いてるのに、とリンは指さしついでにその端っこの席に腰掛けた。鞄を膝の上に抱え、胸元のリボンをきゅきゅっと直す。  まさかそんなことを指摘されるとは思っていなかったシローは、ぽりぽりと鼻の頭を掻きながらそれに答えた。 「あー……いや、なんとなく流れで」 「どーゆー流れよ」 「知り合いに会ったっていうか、知り合いになったっていうか」 「何それわからん」  怪訝な顔で見上げてくるリンの瞳に若干気圧されるように、シローは視線を逸らした。たつみのことは特に隠さなければと思う出来事ではないが、一体どこから説明すればいいのか迷う。ええと、と考え始めたところでシローはあっと思い出した。     
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