2.恋する乙女は観光タワー

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「リン、今日休み時間ちょっと付き合ってくんね」 「はい? いきなり何……」 「高澤先生に用事」 「行く」  リンはこれでもかというほど華麗なタイミングで即答した。眠たげだった目が高澤の名前を聞いたとたん嘘のようにらんらんと輝き始める。本当、こういうときのリンは実に頼りになるものだとシローは苦笑した。  なにせリンはこの世で一番強いらしい「恋する乙女」という種族だ。そのリンがシローの持ち出したこの頼みを断るはずがなかったし、シローの方もリンが一緒の方が何かと都合がいい。  これならたつみに頼まれた「あのこと」も無事こなせそうな気がする。シローは我ながらうまく話を運んだなと感心した。  たつみは今日もバイト先の店に夕食を食べに来るそうだから、そのときにいい報告が出来ればそれでいい。  シローはリンから視線を移し、車窓に映る景色を眺めた。見慣れた看板や立体駐車場が見えてきている。そしてぼんやりとした口調の車内アナウンスは、もうまもなくシローたちの高校の最寄り駅だと告げた。     
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