2.恋する乙女は観光タワー

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 実のところきっかけが何だったのかはよく知らないのだが、リンが高澤のことを好きだと言い始めたのは高校に入ってすぐのことだったとシローは記憶している。  さすがに教師相手に本気じゃないだろうとシローも最初は思っていたのだが、丸一年と高澤の話ばかりを聞かされてきて、今ではすっかり考えも変わった。リンは本気なのだ。これが本気でなくてなんなのだ、とシローが思うくらいには。 「新留が先生にお話があるって言うんで、今日はその付き添いです」  リンはアナウンサーに似た声でそう言った。シロー相手に高澤の話をするリンはたまに蓋をしたくなるくらい鬱陶しいが、いざこうして高澤を前にすると、本当に蓋をされたみたいにおとなしい優等生になる。緊張しているのが見え見えでおもしろかった。  それを聞いて高澤がリン越しにシローの顔を見る。 「新留くんが? やあ珍しいね」  屈託なくほほえみかけてきた高澤に、シローは軽く会釈を返した。昨年からの担任とはいえ、高澤と一対一で話をするのは面談のときくらいしか経験がない。気軽に雑談するような技量もなかったので、シローは単刀直入に用件を告げた。 「ちょっと今朝、ここのOBの人と知り合って……その人が高澤先生に挨拶しに来たいらしいんですけど、代わりに都合訊いておいてほしいって頼まれたんです。あ、えっと、陣たつみって人で……」     
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