2.恋する乙女は観光タワー

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 おそるおそるたつみの名前を出すと、四角い眼鏡の奥で高澤は晴れやかに笑った。 「陣くんか! 久しぶりに聞いたなあ、その名前。へえそうか。彼、元気なのかい?」  何の話かとリンが視線で尋ねてくる。そういえば結局たつみのことは何も教えずにいたのだった。シローは高澤に説明するついでにリンにも話を聞かせた。 「たぶん元気だと……あ、もともと俺のバイト先の常連さんなんです。今朝大学に早く行くんだとかで電車同じになって……話してみたら先輩だってわかったもんで」  あとトマトが嫌いみたいです。と言ってから、別にそれは言わなくてもよかったかとシローは口を閉じた。これでシローの勘違いだったら申し訳ない。  だがどうやら高澤にはウケたらしく、高澤は目じりにくしゃっとしわを作って笑った。 「そうかそうか。相変わらずトマトは苦手なのか。……はは、それにしても新留くんとはおもしろい偶然があったものだね。いいよ、火曜か水曜の放課後あたり学校に遊びにおいでって伝えておいて。OBなら学校に入るのも簡単だから」  高澤が機嫌よさそうにそう答えて、シローはほっとしながら頷いた。たつみのトマト嫌いもシローの思い込みではなかったらしい。 「あ、あの! 先生ってその陣さんって人と仲良かったんですか?」     
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