2.恋する乙女は観光タワー

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「だから、その悩み事ってのが気になるんじゃない。あんなに楽しそうに生徒の話する先生初めて見たし……そういう人と先生がどういう話をしてたのかって、知りたいしさ」 「あのなぁ、それって首突っ込んだらダメなところだろ。悩み事ってそうそう人に知られたくねーもんなんじゃねえの」  ため息まじりにシローが指摘すると、リンははっとしてシローの肩から手を離した。 「う……それもそうか……正論だわ」  シローのくせに、と悔し紛れに言うので、シローは馬鹿馬鹿しいと教室に向かう。リンは小走りでついてきてシローの横に並んだ。 「まあ詮索はしないにしてもさ、シローは気になったりしないの? 高校のときその陣さんって人がどんなことに悩んでたのか」 「…………」  即答は出来なかった。気にならないではないが、たぶんこれはただの野次馬精神だとシローは思った。たつみのことをそう知っているわけでもないのに、ずかずかと土足でプライバシーに踏み込むわけにはいかないだろう。 「……別に」  と、シローは一番無難だろう言葉を返しながら教室に入る。リンはふうんと不思議そうにまばたきをしていたが、それ以上追求はしてこなかった。     
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