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電話の向こうで、たつみが誰かと話をしていたり、バタバタと何か慌ただしい物音がしたりしているがよく聞こえない。引いては返す波の音と、何よりも自分の嗚咽ばかりが耳に入った。鼻の上のあたりがつんとして、頭が痛む。
寂しくて仕方がなかった。足先が冷えて、じっとしていると沈んでしまいそうになる。
自分でこんなところまでフラフラ来ておきながら、もう会えないと思っておきながら、でも口を開いたらあんな言葉が出てしまった。本音だ。そんなことは自分が一番わかっている。
息苦しくて上げた視界に、濃くなった夕暮れの赤がじんと沁みた。ここはどこだろう。自分はいまどこにいて、何が悲しくて泣いているのだろう。
ただただ空に溶けた赤色が眩しくて、シローは声を上げて泣いた。
『……シローくん、シローくん!』
しばらくして繋がったままの携帯電話の向こうからたつみの声が聞こえてきた。シローはポロシャツの短い袖で涙を拭い、ずび、と鼻をすすって返事する。
『駅、見えるところまで出てきて』
一番近い駅、とたつみは息切れしているような声で言う。一体なんだ、とシローはふらつく脚で立ち上がってのろのろと歩き出した。もう何年も歩いていなかったような錯覚に陥る。足元はいつの間にか薄暗くなっていた。
シローは防波堤の階段を上る。近くの駅なんて、防波堤を上がればすぐそこに見えるはずだ。
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