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先ほどまで夕暮れの色が残っていた海はすっかり色を失って、迫るような暗さで夜に沈もうとしていた。このまま夜が更ければ、あたりは夜の闇に覆われて、浜も海も空も見分けがつかなくなるのだろう。
夜の海って怖いよね、とたつみは少し笑いながら言う。
けれど、少し目を上に向ければ、空にはいつも見るよりずっと多くの星が瞬いているのがシローにはわかった。中途半端に欠けているけれど、月だってきちんと空に浮かんでいる。
そしてわずかに届く防波堤の上にある街灯の明かりが、たつみの横顔がすぐそこにあることを知らせてくれる。
別に、とシローは返した。
「そんなに怖くはないです」
「よく言うよ、大泣きしてたくせに」
たつみは小さく噴き出しながら言う。あれを笑うのか、とシローは憤って口を開こうとするが、それより早くたつみの身体がスッと近づいてきて、シローの額はたつみの鎖骨にぶつかった。
同時にたつみの手のひらが首筋を捉えるのがわかって、シローは動きを止める。抱き寄せられたというより、たつみの方が抱き寄ってきたのだ。
頭に押し付けられたたつみの唇から、はあ、と熱い息が漏れる。
「無事でよかった」
言われて鳥肌がたった。
忘れかけていた涙がまたぐぐぐとせり上がってきて、シローは目を見開いてそれに耐える。
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