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あれだけ泣いておきながら、まだ泣くつもりなのか。自身を叱咤するように思ったけれど、涙は構わずシローに泣けと迫ってきた。
「……すいません」
自分でもわかるぐらいに声が震える。
触れているたつみの肌が熱くて、たつみの匂いが潮の匂いよりもずっと近くて、それが全部たまらなかった。
どうしていいかわからずふらつく手が、やがてたつみのシャツの裾を捉える。
するとたつみの手は、まるで赤ん坊をあやすみたいにゆっくりとシローの後頭部を撫でた。
「うん、もうしないで」
シローは幾度かまばたきをして、ギリギリ涙が落ちないことを確認すると、少し動いて顔を上げた。たつみはそれに応じて身体を少し離す。
「たつみさん、古寺さんのこと好きだったんすよね」
「……そうだよ」
たつみは微笑んで答えた。
いまもか、とはどこか怖くて尋ねられず、シローはぐっとたつみの身体を押し返す。たつみの手のひらは少し名残惜しそうに肌の上を滑ったが、シローが離れようとするのを引き止めはしなかった。
シローは、たつみとの間に吹き入ってきた風の涼しさに誘われて足を動かす。考えもなしに海の方へと歩いてみると、しゃり、しゃり、と砂が鳴った。
あいつさ、とたつみが座ったまま背後で口を開く。
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