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「ずっと傍にいたんだ。なんか、よくわからないくらいずっと。大袈裟かもしれないけど、おれにはあいつが全部だった。ちゃんと気付いたのは高校入ってからで、それも遅かったけど、でも初恋だったんだよ」
シローはゆっくりと海辺の方へ歩きながら、たつみの話を聞いた。耳を塞ぎたかったけれど、腕の火傷がいまさら潮風にひりひり痛んで、それをさせてくれなかった。
「でもそれをあいつは、ほんと真剣な目で、病気だって言った」
笑えるだろ、と言うたつみの声は少し震えている。
シローがふと立ち止まって軽く振り向くと、思った通り、たつみは眉を下げて困ったみたいに笑っていた。
「それこそこっちが泣きたくなるぐらい、おれのこと心配してそう言うんだ。もうなんか、たまらなくってさ」
「……わかります。あの人いまでも、たつみさんのことすげー大事に思ってる」
言うとたつみは目を細めた。
たぶんたつみは泣いたのだろうな、とシローは思う。高校時代、シローたちと同じ制服を着て、たつみは失恋の悲しさと古寺の優しさと、それから「そう」だった自分自身に泣いたのだ。
ひとりきりだったのか、高澤がすでにそのとき傍にいたのかはわからない。
でもきっと、シローがそうだったように、あの痛くて寂しい場所に立てたのはたつみひとりだけだ。
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