3.二十一時の霹靂

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3.二十一時の霹靂

 人にあまり知られたくない悩み、というものに、シローはあまり縁がなかった。  何もかもに満足していて、何もかもに恵まれているわけでは決してないが、身の回りにあるものを、そう必死に頭を抱えるような悩みとして認識したことがないのだ。  一人で職員室に入れないことだって、悩みなんて呼んではあまりに大げさだ。  「悩みがないことが悩み」なんて間抜けなフレーズも、案外他人事ではないのかもしれない。シローはそう気付いて、ううんと唸った。リンに言ったら十中八九馬鹿にされるだろう。  そんなことを思いながら乗った帰りの電車はいつも通りにほどよく空いていて、朝座れなかった分、シローはしっかりと端っこの席に座った。帰宅部はこういうところが恵まれている。 「いらっしゃいませー」  響いたドアベルに反射的にそう返してから、あっとシローは足を止めた。二十一時少し前。たつみはいつもと同じような時間にやって来た。たまたまその日は客が少なく、たつみが来店する少し前にひとりだけいた客がちょうど帰ってしまったところだった。  店に入ってシローを見つけ、次いで店内を見回すと、たつみはどこか照れくさそうに笑った。 「はは、貸切かあ」 「……お好きなとこどうぞ」     
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