3.二十一時の霹靂

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 シローの言葉は、接客言葉と自分の言葉とが半々くらいに混ざった中途半端なものになってしまった。しかもちょっと震えていたかもしれない。けれど、はあい、とたつみがそれに乗るような声色で答えるので、思わずシローは小さく笑った。  ほっとした心地でお冷やを注いでテーブルへ運ぶと、「お疲れ様」とたつみはにこにこ笑っていた。 「今日は生姜焼き定食にしよっかな。ごはん大盛りで、あとミニサラダもね」  サラダ、と言われてシローはそうだと思いつく。 「……トマト、抜いた方がいいですか?」  へ、とたつみは目を丸くした後、うわーっと情けない声を上げながら参ったとばかりに眉を下げる。 「ばれてたか……ぜひお願いします」  シローはまた小さく噴きだした。  ひとまず暇そうにしている厨房のメンバーに注文を伝えると、「あのおにーさんよく来る人だよね?」とたつみのことを聞かれた。これまでシローの友人が店に来たことなどないし、そもそもたつみが常連客であることは他の店員も知っている。そのたつみとシローが親しげに話している様子は、彼らにも物珍しく映ったようだった。実は高校のOBなんです、と簡潔に説明すると、シローはそそくさとたつみのテーブルの元へと戻った。  すると、なんかやっぱり不思議だな、とたつみが呟くように口を開く。 「こんなところで後輩に会うと思わなかったっていうか、ニイドメくん結構前からここで働いてるよね? すごい今さらだよなぁ」     
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