3.二十一時の霹靂

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 ふーっと吐かれたたつみの息が妙に耳につく。  それになぜだか焦りみたいなものを覚えて、シローはたつみの手元から視線を外すことも忘れて口を開いた。 「あ、えと……――」  しかし、それを遮るように厨房から生姜焼き定食の出来上がりが伝えられる。反射的に振り向くと、台に置かれた定食からおいしそうな湯気が上がっているのがよく見えた。  うまそー、とたつみが呟くように感嘆の声を漏らす。  シローははっとして「すぐに持ってきます」と言い残し席を離れた。たつみはいつものように頼むねと笑ったような気がしたが、はっきりと顔を見ずに歩き出してしまったシローには、それが本当かどうか確かめることはできなかった。  カウンターに設置されている味噌汁の鍋を開けると、煮込まれた味噌と出汁の匂いが湯気とともにわっと目の前に立ちのぼった。底の方に沈んでいる味噌をかき混ぜ、ひと掬いして碗に盛る。シローはその碗に蓋をし、出された定食の皿とトマト抜きのサラダと共に膳に並べた。  身体はいつもと同じように動いているのに、頭は真っ白になってどくどくと心臓が鳴っている音ばかりを聞いている。  驚いた。  驚いたのだ。     
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