3.二十一時の霹靂

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 聞くつもりがなかったことをいきなり明かされたせいかもしれない。いや、けれどそれだけじゃない――シローはたつみの言葉をおそるおそる反芻した。  ゲイ。つまり同性愛者。 「…………」  シローは深く息を吸う。  リンには興味ないと答えたし、考えるべきことでもないと思っていた。しかし頭の片隅ではずっと、たつみの悩みとはなんだったのかと考えを巡らせずにはいられなかった。勉強のこと、進路のこと、もしかしたらいじめ問題かもしれない、なんてことを。  だがそのどれとも違った。やはり自分の勘は当たらないなとシローは思う。  でも、まさかな、とシローは顎を引いた。  だってちっとも「そんな風」には見えないのだ。近くにいてわかるものなのかどうかもシローは知らないが、少なくともたつみといてそんな風に感じたことは一瞬たりともなかった。  シローは支度の整った膳を持ち上げると客席の方へと向き直る。未だに店内の客はたつみだけだ。それが幸か不幸か、シローには判断がつかなかった。 「おまたせしました」 「うん、ありがとう」  たつみは眉を下げて笑う。シローは今度こそその笑顔をしっかりと見た。  だが続けてその笑顔のまま「ごめん」と切り出され、シローは口を開くタイミングも、たつみのいる机から離れるタイミングもすっかり見失ってしまった。     
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