3.二十一時の霹靂

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「気持ち悪かったらそう言ってくれていいよ。何もわかれっていうんじゃないし……ただ隠しとくようなことでもないからさ、先に言っておきたかったんだ」  でも驚かせてごめん、と繰り返し謝りながらたつみは少し笑う。  シロ―にはその言葉のどれもがうまく呑みこめなかった。  よくわからない。一体たつみが何を言ったのか、何に謝ったのかがよくわからなかった。  シローの返事を待たずに、たつみはいただきますと手を合わせ、箸袋をとり、味噌汁の蓋を開けようと手を伸ばす。たつみのその和やかな横顔に、ただ違和感が募る。  ごめん、という言葉と笑顔で突き放されたみたいだ。  シローは急に胸が冷える感覚に襲われた。  なぜかはハッキリとはわからない。だが言うだけ言って、一方的に謝って、そしてまるで話が終わったみたいに食事を始めるたつみの姿は、シローに対して壁をつくっているようにしか見えなかった。  シローがそれに驚くこともそれについて考えることも、たつみはその笑顔を持って拒絶しているように見える。まるで鎧を着込むように、頑丈な笑顔を貼り付けているみたいだ。 「……なんで、そんなこと」  吐き出されたシローの言葉にたつみは一瞬手を止め、真意をうかがうようにシローの顔を見上げた。店内の照明に瞳が照らされて、丸い眼が薄い茶色に透けている。     
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