4.息を吸って吐く時間

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4.息を吸って吐く時間

 テレビ番組がゴールデンウィーク仕様になってきたものの、シローたちの通う開和高校では、カレンダー通り平日はすべて登校日となっていた。  クラスには家族で海外旅行に出かけているという堂々としたサボりもいたが、シローにもリンにもあいにくそんな予定はなく、二人は眠い目を擦りながら授業を受けていた。  数学から始まる憂鬱な火曜日である。  今日の放課後にたつみが来ると言うことはリンにも伝えてあるが、「たつみの高校時代の悩みを聞いてしまった」とまではついに言い出せなかった。  あまり軽々しく口にしていい話には思えなかったとか、リンがどう思うかと考えると、とか、色々と理由になるようなものはあったが、結局はシロー自身がその話を受け止めきれていないのである。  たつみは、自分のことをゲイだと言っていた。  そういう単語をシローも知らないわけではないが、やはりどこか別の世界の話のように感じる心があった。ネットや映画の向こうにたまにそういう人がいるだけで、実際に顔を見たり話したりするところにいないような気がしていたのである。     
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