4.息を吸って吐く時間

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 だからたつみが言っていた「気持ち悪い」とかなんとか、そこまで考えが至っていないだけかもしれない。  だがこの先、自分がたつみのことをそんな風に思って避ける日が来るようには思えなかった。根拠を述べよと言われたら難しいが、シローの中でそれは確信に近しかった。 「ねえ、あれじゃない?」  放課後、気付くとリンが校庭の向こうにある校門あたりを指さしていた。シローたちの教室はちょうど校庭に面した二階にあり、校門から校舎への道もよく見える。シロー窓越しにそちらを見た。校庭にいる下校生や部活動を行っている生徒たちを眺めながら、ゆっくり校舎に近づいてくる私服姿の若い男が目に留まる。なるほど、あれならたつみの顔を知らないリンでも、あれがたつみだとわかるわけだ。 「あれだな」  言うとシローはたっと立ち上がって、手ぶらで正面玄関へと向かった。リンがそれに当たり前のようについてくるのは計算外だったが、そういえば火曜は多忙な吹奏楽部の唯一の休みだ。  たつみが来るのが今日だと聞いたリンがラッキーと喜んだのはこういうわけである。     
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