4.息を吸って吐く時間

3/12
前へ
/207ページ
次へ
 うわーなつかしー、と間延びする声が玄関から聞こえてきた。下駄箱の間の向こうに、他の生徒たちから物珍しげな視線を浴びているたつみの姿がある。高校生に混じると、その髪の色がずいぶんと際立って明るく見えた。 「陣さん!」 「あっ、ニイドメくん。とりあえず玄関来てみたんだけど、大丈夫だったかな?」  そう言いながら少し気恥ずかしそうにたつみは笑っている。結局あれからバイト先でもたつみの姿を見ていなかったシローは、その笑顔を見てほっと胸を撫で下ろした。今日のたつみの顔色に、あのときのような違和感はない。  むしろ久しぶりに母校に来た嬉しさが、たつみの身体中からにじみ出ているように見えた。もしも尻尾があったらぶんぶん振っていそうな勢いである。  と、たつみの仕草をじっと見ていたリンが、唐突にシローの後ろで「ゴールデンレトリバー……」と呟いた。シローは思わずむせ返る。  込み上げてきた笑いをどうにか呑み込みリンに文句を言うと、まさしくゴールデンレトリバーみたいなふわふわとした明るい髪を揺らし、たつみが首を傾げた。手足の長さだとか仕草だとか丸い目の感じだとか、言われるとますますゴールデンレトリバーに似ている。 「? ニイドメくんの彼女?」 「ち、違います……」  シローはうっかりすると持ち上がってしまう頬を必死で抑え、たつみにリンを紹介した。 「長友凛って言って、中学んときからの同級生で……」     
/207ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1017人が本棚に入れています
本棚に追加