4.息を吸って吐く時間

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 シローは横目でちらりとたつみを見る。ふわふわした髪が耳を覆い隠していて、まるでゴールデンレトリバーのたれ耳みたいだ。悟られないようにまた少し笑いながら、シローは目を閉じた。  絶えずたつみの足が刻む小さなリズムが静かに鳴っている。 「お待たせー、やあやあ陣くん久しぶり」  ほんわかした高澤の声が不意に飛び込んできてシローが目を開くと、そこにはたつみに笑いかける高澤のおっとり顔と、その後ろに続くリンの姿があった。  先生、とたつみがにわかに明るい声を上げる。 「本当、よく来たね陣くん。少し背が伸びた?」 「まさか。そんな変わってないですよ。先生の方は相変わらずうさんくさい顔してる」  けらけらと笑いながら軽く飛び出たたつみの言葉に、リンとシローはぎょっとした。  クラスに高澤を慕っている生徒はそこそこいるものの、この人のよさそうな高澤相手にそんな風に軽口を叩くような者はいない。それに物優しげなたつみがそんな口の利き方をすることも意外だった。  だがシローやリンの驚きをよそに、高澤は「失礼な」と楽しげに受け答えしている。彼らの間ではそれがごく普通のやりとりなのだろう。 「さてどうしようか。僕もそろそろ帰れるし、どこかでお茶でもするかい?」 「あ、それなら先にちょっと校内見学とかしてもいいですか? 資料にもなるしちょっと写真撮っていきたいんですよ」     
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