4.息を吸って吐く時間

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 言いながらたつみはいつものトートバッグからおもむろに一眼レフを取りだして、どうかなと高澤に問う。それに反応したのは高澤の隣に立つリンだった。 「わ、すごいカメラ。資料って、なんの資料なんですか?」 「絵だよ。おれ一応美大生でさ。課題やるのに必要なんだ」  それを聞いてリンはわあっと顔を輝かせた。 「先輩、美大通ってるんですか! いいなぁ、私ちょっと興味あるんです」 「えっ、リンお前絵とか描けないだろ」 「何言ってんの、あんた見たことないでしょうが」  口を挟むシローにムッとした口調でリンは返すが、へえ、と高澤が声を漏らした拍子にぴんと背筋を伸ばしなおした。 「長友さん美大志望なの? それじゃちょうどいい、先輩に色々聞いておくといいよ」  ね、陣くん、とたしかに少しうさんくさくも見える笑顔で高澤に話を振られ、たつみは眉を下げながら頬を掻いた。 「いや、先輩って言ってもおれはそんな……」 「ほら、オーケーだって。よかったね長友さん」 「え、あ、はい!」  先ほどの軽口への仕返しなのか、高澤はたつみの言葉を遮ってリンに笑いかけた。聞けよ、とたつみの軽快なツッコミが入って高澤がおどけた顔をする。そんな風に高澤もたつみも肩を揺らして終始笑っていた。     
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