4.息を吸って吐く時間

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 仲が良いというか、とたつみは言っていたが、傍から見ればどう見てもとても仲の良い教師と生徒だ。少なくともシローやリンはこれほど楽しそうな高澤を見るのは初めてである。  たつみも高澤の前になると少し空気が変わるなとシローは思った。  店に来るときともシローと話すときとも違って、いい意味でくだけているように見える。素というものがあるならたぶんこれがたつみの素なのだろう。リンとはまるで真逆だ。  シローはたつみの明るい髪が軽く揺れているのを眺めて、それがまだ黒色だっただろうたつみの高校時代をぼんやりと思った。 「ならせっかくだから長友さんも帰り一緒に行こうか? 新留くんもどうだい?」 「へ?」  高澤の声に意識を引き戻され、シローは目を丸くした。  反射的に断ろうとしたが、それを聞いたリンが絶対についてこいとばかりに制服の袖をひそかに引っ張って来るし、高澤ににこにこと迫られるとどうにも断りづらい。弱ってたつみの方を見やると、ゴールデンレトリバーみたいな目と視線が合ってにこりと笑われた。  こうして見るとなんだか高澤の笑い方とちょっと似ている。 「来なよシローくん。先生のおごりでケーキ食えるよ」  言われてシローはえーと、と迷って、「あんみつの方がいいっす」と返した。     
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