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前に並ぶ女子高生たちがチラチラと彼のふわふわ頭をうかがっていたが、彼はちっともそれに気付いていない様子で、シローが近づくのを待っている。
「おはよう」
少し近づくと、彼は相変わらずのにこやかな表情でそう言った。シローは少しぎこちなく答える。
「……はよ、ございます」
少し迷ったものの、シローは最後尾だった彼の隣にそろりと並んだ。
あの定食屋でアルバイトを初めてから、たしかに顔見知りになった常連客はそこそこいる。けれど今まで、店の外で誰かと出くわしたり、声をかけられた経験はなかった。自分は存在感のあるタイプではないし、出会っていたとしても気付かれることはないだろう。シロ―はずっとそんな風に思っていた。
だから彼の声がまっすぐにこちらに飛んできたことに、少し、驚いたのだ。
先ほど振り返っていた女子高生はもう前に向き直って、自分たちの話に夢中になっている。
隣に立つと、シローよりも彼のふわふわ頭の方が、十センチほど背が高かった。
店に来るときと同じような、シンプルだが綺麗な着こなしをしている。足下はサンダルで、パンツは黒のカーゴ、上はたくさんの数字を組み合わせて描かれたライオンのデザインTシャツだ。無地のポロシャツばかりが詰まったシローのタンスには、決して入っていないタイプの服である。
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