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装いや雰囲気からすると、彼は大学生のように見えた。
「妙なところで会ったね」
彼は唇の端をにこりと持ち上げる。人のよさそうな顔で笑うなあとシローはしみじみ思った。そうっすね、とシローは半分口の中で答える。
そういえば、自分は店の中でも客と必要以上の会話をしたことがあまりない。おしゃべりな昼のパートのおばちゃんたちみたいに、あらどうもぉ、なんて言えるテンションはなかなか出てこないものだった。
シローがひとまず音楽プレーヤーのスイッチを切ってイヤホンをくるくる巻き付けていると、彼が口を開く。
「えーっと、ニイドメくん、だっけ」
「え? なんで名前……」
こちらは顔を覚えられていただけでも驚きなのに、と思っていると、それが顔にでも出ていたらしく、あーあのね、と彼は苦笑気味に種を明かす。
「名前は名札見て……で、えっと、気を悪くしないでほしいんだけど、君覚えやすいんだよね。お冷やを注ぐとき、いつも小指が立つから。おもしろくってさ」
「は? 小指?」
「そう。こーんな風に」
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