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と、彼は頼んでもいないのにピッチャーを持ちお冷やを注ぐシローの手つきを真似し始める。そのピッチャー側の手の小指が、手の傾きにあわせて根元から徐々に起き上がり、最後にはピンと跳ねるように立った。シローは目を丸くする。
「……やっぱり自分じゃ気付いてないって感じ?」
シローが何も反応しないのを見て、彼はそんなことを言った。シローは「これ、俺が?」と彼の手と自分を交互に指して尋ねる。
彼は返事をする代わりにふふと笑って、立てたままの自身の小指をまじまじと眺める。
「はは、毎回目の前でやられると覚えちゃうもんだよねー。我ながら似てるよ。こう、くくく~っと上がってきて、最後にピンッって」
ほら、と見せられたところで、自覚のないシロ―には似ているかどうかなどわからなかった。
けれど、まさかと思って自分でもエア水注ぎをしてみると、本当に今見せられたとおりのまま小指が立った。シローがぎょっと目を見開くと、彼は昨日みたいに口元に手を当ててクスクス笑う。
ということは、なるほど昨日も、彼はシローの小指を見て笑っていたのだ。どうしてあのとき気付かなかったのか、とシローは逃げ出したい気持ちをぐっとこらえ、スクールバッグの紐を握りなおした。
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