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そのシローの気まずい思いを察したのかどうか、ふわふわ頭の彼は一度背を伸ばすと、駅のホームにつるされた電子掲示板に目をやった。そして、もうすぐ電車来るよ、とまるでシローを励ますみたいに言う。
決して今までのやりとりに悪気があったような様子ではない。いい人なんだろうな、とシローはうつむきながら思った。
シローの鼻に若い緑の匂いが香る。四月の終わり、もうまもなくゴールデンウィークがやって来ようといううららかな春の日のことだ。桜はとうに葉桜になっていて、駅のホームにある金網フェンスから漏れる明るい葉の色がちかちかと眩しく視界の隅で揺れている。
「あ、でさ、ニイドメくんその制服、開和高だろ? 何年?」
「……二年です……」
切り替えきれていないシローの態度に彼はまた少し笑って、一度ごめんねと謝った。いえ、とシローはまだ少しうなだれていたい気持ちで答える。彼はのんびりとした調子で話を続けた。
「おれ、開和の卒業生なんだよね。この駅に後輩いるんだーってその制服見てたら、それが知ってる店員さんだからびっくりしてね」
「なるほど……」
「まあおれ卒業したの三年前だし、今の現役生とは面識ないんだけど……。でも先生はまだそんな変わってないのかな? 古典の高澤先生とか知ってる? おれの受け持ちだった先生なんだ」
「へっ」
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