貝殻から聞こえる《高校編》

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(……あぁ、でもそういえば…)  今年は毎年恒例になっていた「海へ行こう計画」は立てずじまいだったな、なんてことに思い当る。  慌ただしい夏に無理やり互いの予定を合わせるので、その日に天気が悪かったりすると翌年に持ち越しになってしまうなかなか無謀なサイクリング計画。  それでも毎年楽しみにしていたのに、すっかり忘れていた。  ……なんで忘れていたりしたんだろう。  それが酷く悔やまれた。  深谷に彼女ができたと噂で知った日に、俺は電話をかけた。  電話越しの深谷はいつも通りで、特には変わった様子はなかった。  だが、週末ウチに遊びに来ないかと誘ったら用事があるからと断られた。  そうかじゃあまた別の日にでも遊びに来いよと気楽に笑って電話を切った。  やけに心臓がどきどきと脈打って、手が痺れたように微かに震えていた。  彼女と出かけるのか、と喉元まででかかった言葉を飲み込んだのは、ただの意地だった。  こちらから尋ねるのではなく、深谷の口から聞きたかった。  言わせるのではなく、言ってもらいたかった。  友情よりも彼女を優先するのか、と面白くない気持ちもあった。たぶん子供じみた嫉妬なのだとその時は単純に考えていた。  いずれにせよ俺の腹には深谷に対して消せぬしこりが残った。  その後も、俺は何度か深谷を遊びに誘ったが、すべて断られた。  逆に、深谷から誘われることはなかった。  道ですれ違えば挨拶するし、学校で立ち話をすることもある。教科書を忘れて借りることも。  だが、一緒に遊びに行くことはなくなったし、お互いの家を行き来することもなくなった。  高校に入学してからただの一度も二人だけの時間を過ごすことはなかったのだ。  ……どんなに鈍くてもいいかげん気付く。  自分は深谷に避けられているのだと。  原因を探ったが、なにぶん半年以上も過ぎている。  これが一週間とかせめて一カ月以内の話なら心当たりの探りようもあるのだろうが、時が経ちすぎてしまっていてまったく見当もつかない状態だった。
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