貝殻から聞こえる《高校編》

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 下手をしたら中学時代まで遡る必要がある。……そうなってくるともはやお手上げだった。  元々忘れっぽいところのある俺だ。半年以上も前のことなどとっくの昔に忘却の彼方へ葬り去られていた。  それに加えて、記憶を遡る以前に腑に落ちない点もある。  深谷の態度はどう考えても不自然だった。  例えば俺のなにかに腹を立てているのなら、なにがしかのリアクションなりあっていいはずだ。  深谷も俺も喧嘩は短期決戦型だ。  長引かせるのは好まない。  互いに言いたいことは言う方だ。  腹に溜めこんでウジウジ悩むよりも、さっさと解決することを望む。  しかし、今回は喧嘩にしては妙なのだ。  電話での対応も、顔を合わせても、いつもの深谷で、邪険に扱われたわけではない。  ただ、軽い調子で誘いを断られるだけだ。 (わっかんねーなぁ)  一度だけ、尋ねたことがある。 『もしかして、おまえ俺のことでなんか怒ってるのか?』 『なんだよいきなり。別に怒ってなんかないぜ?』 『じゃ、なんで俺と遊ぶの断ってばっかなんだよ』 『悪い。…なんかタイミング合わないっていうか、週末とかだいたい予定が入ってんだよな。それ以外は部活だし』 『あっそ』  予定ってデートかよ。  気楽に言ってしまえばよかったのに、すっかりへそを曲げていた俺は言えなかった。  断った埋め合わせをするという話は一度も深谷の口からは出なかった。  ……彼女を優先したい、ということだけじゃないかもしれない。  深谷は俺と距離を置こうとしている。  俺は木枯らしが吹く校庭を眺めながら、それをようやく悟った。  もう自分から深谷を誘うことはやめよう。……そう思った。 (嫌われたんかな…)  なんでだろう。  俺は何をしでかしてしまったんだろう。  自分では気づかないうちに俺は深谷の気に触るような何かをしたのだろうか。それが原因で俺に嫌気がさしたのだろうか。
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