貝殻から聞こえる《高校編》

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 なんかもうトドメをさされた感じだった。  ぐっさりきた。  心臓を一突きされた。  もうだめだ。死んだ。終わった。  深谷が好きだ。  どうしようもない。  ――不毛だ。ああ不毛。なんて不毛なんだ。  夢も希望もありゃしねぇ。  俺は夜遊びをやめ、彼女を作った。  クラスメイトが俺のことをリア充と罵ったが知ったことか。充足感なんかここ最近すっかりご無沙汰だわ。  俺は高二の冬、晴れて童貞を捨てた。  感想はただ一つ。  勃ってよかった。  それだけだ。  我ながら最低すぎて反吐が出る。 「彼女できたんだって?」  ある日、深谷の方から珍しく話しかけてきた。学校の廊下だった。  俺はトイレに行った帰りで、深谷はたぶん移動教室かなにかだったのだろう。手に筆記用具と教材を抱えていた。  俺は内心ひどく驚いたが、たぶん表面には出さずにすんだのではないかと思う。  驚きが去ったら、代わりにじんわりとした腹立たしさが湧きあがった。  久しぶりに話しかけてきたと思ったらよりにもよってそれか、と。 「…まぁな」 「可愛い子みたいじゃん」  俺のことなんかもう興味ないんじゃねーの?  おまえいつからこういう下世話なネタに食いつくようになったの?  前は、女より友情だったじゃん。  彼女を作るより友達同士で遊んでる方が楽しいって言ってたのおまえじゃん。 「まぁな、羨ましがれよ」 「うらやましい」 「棒読みヤメレ」 「いやいや本心だから」  あーこれ、地味にくんなぁ。  ニヤついてんなよ、ムカつく。  おまえにからかわれるのが一番キツイんだよ。わかれよ。俺ら、友達だっただろ?  ……なんでわっかんねーかな?  なんでわかんねーんだろーな。  なんでこんな気分になんのかな?  彼女できて幸せ絶頂なはずなのに、超不幸な気分になってんのはなんでかな?  それって俺も彼女も報われなさすぎんでしょ。  なんでこんな、超悲惨な失恋した気にならなきゃなんねーかなぁ。  っていうか俺ってば、超って言いすぎ。
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