貝殻から聞こえる

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 結局、クラスも三年間違っていたし、部活も異なれば必然的に接触する機会も減る。  それも致し方ないことかといつしか寂しさは諦めに変わった。  新しい友人ができれば古い友人が去っていくこともある。  俺に新しい友達ができたのと同様に、深谷にも新しい友達ができた。  誰でも経験する単純な別離、……それだけの話だ。  ただ、俺から見た深谷は、高校生になっても相変わらずしっかりしていて部活動にも学校の行事にも勉強にも熱心に取り組む優等生だったから、今回の突飛な行動が彼らしくないように思えて仕方なかった。  むしろ、普段、思いつきで行動するのは俺の方だった。  言いだしっぺが俺で、計画を立てるのが深谷。  それが二人のスタンスで、ずっとそれで上手くいっているのだと、俺は高校に入るまでそう思っていたのだ。  だからそれを疑問視することもなかった。当たり前のこととして捉えていた。――失うまでは。 「どれくらい来た?」 「そろそろ半分くらいかな。川幅がずいぶん広くなってきた」 「途中で夕立がきたりしてな」 「今日の降水確率はゼロパーセントだ」 「じゃあ隕石が落ちるかも」 「隕石落下確率もゼロパーセントだ」 「どこ調べだよ、それ!」 「もちろんN○SA」  バカなことを言い合いながら、風の中を走る。  まるで中学時代の二人に戻ったみたいに。  他愛もないことで無邪気に笑い合った。  そんな風にしていると、深谷の真意など次第にどうでもよくなってくる。  身構えていた気持ちが春の風の中に溶けて消えてゆく。拘りや鬱屈もぜんぶ風で剥がれおちてしまえばいいと思う。  こいつがリベンジというのなら、それにつき合うのも悪くはない。
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