貝殻から聞こえる

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 深谷がわざわざ「リベンジ」なんて大仰に言うのにはそれなりのわけがある。  一番最初に自転車で海に行く計画をたてたのは、俺らがまだ小学生のときだ。  俺たちの住む町から海までは川沿いに下って約三十キロメートル。自動車だと一時間弱。自転車なら…特に子供の足だと片道で半日はかかるだろう。  その計画は俺の冒険者魂をおおいに刺激してくれた。  すこしの小遣いと地図と食料と自転車。準備は万全だったが、しかし計画予定日に本州を直撃する大型台風に見舞われ俺たちの計画も押し流された。  翌年にも「海へ行こう計画」をたてたが、予定日に今度は俺が夏風邪を引いてキャンセル。  中学時代にも何度か試みたものの、嵐が来たり、今度は深谷が怪我をしたりで結局一度も一緒に海へは行けず、――今日、この日まで実現することは叶わなかった。  一体足掛け何年に及ぶ計画なのだろうと呆れる。  たった海に行くだけのことが流れに流れて高校の卒業式を終えたばかりの今日まで延びてしまった。  もっとも高校時代に計画を立てたことは一度もない。それくらい自分たちは疎遠になっていた。  古い計画をいまさら持ち出した深谷の目的はなんなのだろうか…。  そもそも自分たちの年齢なら自転車に頼らずとも他に交通手段はあるわけで、時間と労力をかけずにもっと簡単に海へ行ける。  気の早い友人の中にはすでに自動車免許を取得しているヤツもいるから、そういった連中に声をかけてもいい。  海までのドライブなら遊び半分に喜んで付き合ってくれそうな気のいいヤツらだ。  だが俺としてはせっかく深谷と海へ行くのなら、「自転車」はやはり拘りたい部分ではある。  深谷も当たり前のように自転車で訪ねてきていた。……アポはなかったが。 「なぁ、深…」 「丹羽! 海だ! 海が見えたぞ!」  珍しくはしゃいだ声をあげて川の辿りつく先を指し示した深谷に、俺の問いかけるはずだった言葉はあっけなく霧散した。
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