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「ごめん。……言わなきゃよかったな。迷惑になることはわかってたんだけどさ」
「…ッ」
「この土地を離れる前に告白して区切りにしたかったんだ。未練を残したくなかったから約束を成就させたくて強引に付き合わせた。……自分勝手だよな。忘れてくれていいから」
だからそれが――!
俺は深谷の胸倉を掴み、力任せに引き寄せると思い切りその唇に噛みついた。
歯が当たった唇が裂けて、血が出たのか鉄くさい独特の味がした。それにも構わず、赤い血液ごと唇を吸う。
思い知ればいい。
告白逃げなんかはさせない。
恋焦がれていたのが自分ばかりと思うな。
距離をとられて失ったのは、決して友情ばかりではなかった。
原因を探して。
探して探して探して。
探しているうちに、――なぜこんなにも懸命にそれを探すのか、ある日ふと疑問に感じたのが切欠だった。
遠くから、離れてしまった友人を見て、気付いた。
(ああ、そうか)
彼女ができたと人伝に聞いて、胸が痛むのも。
隣にあった笑顔が他の誰かに向けられるのを見かけると苦しいのも。
自分の意気地のなさが鬱陶しくてたまらないのも。
一緒に海にいく約束が果たせなかったことが悔やまれて仕方なかったことも。
ぜんぶ、彼が好きだったからだ。
それが行き過ぎた友情の延長上にある感情だったのか、それとも初めからそうだったのかはわからない。
ただ、言えることは、――それが誰にも伝えられることなく身の内で腐らせていくしかない想いであることを、気付いた瞬間に悟ってしまったということだ。
彼女を作って、セックスをして、どんどん想いを腐らせて、黒ずんで干からびてしまえばいいと……そう思っていたのに。
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