幻の餃子

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幻の餃子

「確かに旨いが、何か違うかのう……」  シャンデリアが吊され、窓から湖が見える豪奢な洋室で、齢九十五になる老人は昼食を食べ終えた感想を漏らす。 「また、違う店を当たってみてくれんかね」 「承知致しました」  僕は一礼し、食べ終えた食器を乗せたワゴンを押して退室した。  ここは静岡県浜松市にある、富裕層向けの高級老人ホームだ。  元はバブル末期に建てられたリゾートマンションで、入居者がないままに不動産会社が倒産。債権者の管理物件として長らく放置されていたのを、十年程前に格安で入手した福祉系企業が改装。高級老人ホームとなって現在に至る。  多額の入居費を必要とする代わり、高級ホテル並の快適な環境と医療サービスが備えられている。  入居者は残り少ない人生の潤いの為ならば、全く出費を惜しまない。首尾良く要望をかなえる事が出来れば、多額の祝儀を個人的に渡される事もある。  職員は介護施設の職員というより、ホテルマン、もしくは富豪に雇われた召使いの様に入居者の要望に従う。  そして、僕もそんな従業員の一人であり、担当する老人の我が儘に振り回されていた。     
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