幻の餃子

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 当然、餃子店の店主にもばれる訳だが、あろう事かノミ屋の客として抱き込んでしまう事で難を逃れたのだ。  だが悪い事は続かない。とうとう客共々に警察に摘発され、あいつは懲役。店主も摘発対象となった為に、餃子店も閉店となってしまった。  裏にいた暴力団には手が廻らなかった。あいつはいざという時の「トカゲの尻尾」として、主犯として罪を被る為に雇われていたのである。 「悪いけど、浜松駅まで迎えに来て欲しいんだわ」 「わかった」  餃子店の店員だったのだし、末端でも裏社会の人間である。  なにか聞けるかも……  僕は淡い期待を抱きながら、車を浜松駅へと向けた。 *  *  *  浜松駅の南口ロータリーに行くと、坊主頭にアロハシャツの、いかにもチンピラ風の三十男がこちらの車をみつけ、缶を握った手を振ってきた。 「よっこらしょっと」  悪友は車に乗り込んで来ると、額の汗を拭って缶の残った中身を飲み干す。  ビールである。 「昼からビールか?」 「いいじゃねえか、二年振りのシャバだもんよお」 「んで、どこ行く?」  こいつの両親は既に他界しており、収監される際に住んでいた公営住宅も引き払った。  拘置所に面会に行った時に頼まれ、退去の手続きやら荷物の処分は僕がする羽目になったのだ。  職場も潰れており、彼には行く場所がないのである。     
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