幻の餃子

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「荷物、とっとけと言われた物は貸倉庫に入れてあるけど、これからはそこに寝るのか?」 「馬鹿言えよ。とりあえず、ウイークリーのワンルームでも契約して、後の事はゆっくり考えるわ」 「金あるの? ノミの売り上げって、お上に没収されたんだろ?」 「ああ。けど、組が”手切れ金”って百万くれたわ」  とかげの尻尾なだけあって、正規の構成員と違って足抜けもあっさりした物である。その百万が、諸々の口止め料である事は言うまでもない。  差し当たり、当座の生活費はある様だ。 「鰻でも食う? 出所祝いに奢るけど」 「いいねえ!」  僕は悪友を飯へと誘い、行きつけの鰻屋へと車を向けた。 *  *  *  最近は餃子が有名だが、鰻も浜松の名物である。  近年は養殖業者が大分減ってしまい、近隣の愛知県一色の方にお株を奪われつつあるが、それでも市内にはまだまだ鰻屋が多い。  人と食事をしながら込み入った話をする時、座敷のある鰻屋は便利なので、高級老人ホームの従業員として僕もそういった店を心得ている。  入居相談や、入居者、特に認知症が出ている人の家族への状況報告。要は施設内で話しにくい”商談”の場として使う訳だ。  二階の奥座敷に通されると、僕は特上の鰻重を二人前頼んだ。 「うわっ、景気いい!」     
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