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「経費だよ、経費。領収書は取るさ」
「職権濫用だなあ」
とりあえずは、とりとめもない雑談に花が咲く。
三十分程で出て来た鰻重に舌鼓を打ちながら、僕は話を切り出した。
「んで、これから仕事とかどうする訳? 調理師免許があるんだから、そっちに戻るとか」
「前科持ち雇う店なんて、そうそうねえよ」
「……何とか、なるかも知れないけど」
「お、口がある訳? 聞かせて?」
うちの施設では丁度、調理担当が近く退職する事になっていて、後任がまだ決まっていない。あの老人に出す餃子をこいつに造らせて、気に入ってもらえれば、後任に推す事も可能だろう。
僕は、入居者の一人が、終戦直後に闇市で食べた餃子を懐かしがっている事を話した。
「餃子か。任せとけ、と言いたいところだが…… その辺の店の奴じゃ駄目なんだよな?」
「そう。問題は肉なんだよね……」
闇市の餃子を再現する為には、得体の知れない肉を入手しなくてはならない。
僕はこれまでの経緯を悪友に話した。
「何かさあ、手がかりとかない?」
「ああ、その業者なら知ってるぜ」
「本当に?」
何でも言ってみる物である。僕は内心で万歳した。
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