幻の餃子

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 他の入居者の食事に困るのだが、というと、その分も一緒に造るとの事だ。  高級老人ホームという事もあり、現在の入居者は十五名と少ない。職員の賄いについてはは外食でも仕出しでもいい訳だし、何とかなりそうにも思えた。 「どうしてもそれが条件なら、その様にするけど。何でまた?」 「見ない方が、俺も含めてみんな幸せだからだわ。解るだろ?」  扱う食材が食材なだけに、秘密にしておきたいのだろう。  一人にしてくれという要望は、調理法を見せたくないという”料理人の希望”という事で表向きは通す事にした。 *  *  * 「これじゃ、この味じゃ!」  出来上がった餃子を食べ、老人は大いに満足そうだ。 「君、良ければここにずっといてくれんかね? 何だったら儂の方から口添えをしてもいい!」 「済みません、色々と訳ありな身なもんで」  食べ終わった老人は御満悦そうに悪友に申し出たが、意外にも彼は辞退した。 「そうか……」  老人は気落ちした様子だったが、棚から小切手帳を取り出すと、金額を書き込んでサインした。 「儂の気持ちじゃよ」  悪友は小切手を受け取ったが、その金額に仰天した。 「五千万って、え、ええんですか!?」 「どうせあの世には持っていけん。君、これで好きな処に店でも構えたまえよ」     
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