幻の餃子

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 僕の指摘に、通話の相手は大声を挙げた。迂闊に触れ回るべき事ではないだろう。 「別に、分け前くれとか言わないけどさ、何かあいつに頼まれたとか?」 「いや…… ただ、この前ふらっと来てさ。その時、結構経営が苦しいって愚痴こぼしたんだけど……」 「……お前、やばいもん渡さなかった? 麻薬とか」  金に困って取引を持ちかけられたか。  戦後、当時は違法ではなかった覚醒剤が、旧軍の物資から大量に放出されて流行した事がある。いわゆる「ヒロポン」だ。  そういった物を、闇市で怪しげな肉の調味料代わりにしていた事は充分考えられる。  そして現代で、その手の違法薬物を入手するなら、医師からの横流しが最も容易だ。 「冗談じゃない! こっちは只……」 「只?」 「い、いや、こっちの口からは言えない……」  薬物ではないにしても、悪友が何か、”一般人が手にしにくいが、産婦人科で手に入る物”を調達したのは確かな様だ。  恐らく、最初は前金の百万で買い取るつもりだったのが、予想外の収入を得たので追加を送りつけたのだろう。  あいつらしいと言えなくもない。 「そっか、金、貰っちゃったしな…… 麻薬とかじゃないならいい。忘れる事にする」 「それで、あいつとは連絡つくのか?」 「行き先は何も言ってなかった。じゃ、切るぞ」     
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