幻の餃子

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 餃子という料理は、満州引き揚げ者が現地から持ち込んで日本に広めた物で、終戦当時の日本ではあまり馴染みがなかったという。 「あの頃は肉っけが乏しかったからねえ。旨かったよ、あれは」 「その餃子屋さん、状況が落ち着いた時分にお店を構えるなりしたんでしょうか?」 「ああ、それなら…… 今は孫の代だよ。今は、どこでも食べられる様な物だけどねえ」 「本当ですか!」  足を運んだ甲斐があったという物だ。  僕は喜び勇んで、教えられた餃子店へと足を運んだ。 *  *  *  港の側にあるその餃子店は、そこそこ賑わっていた。  外観も内装も、どこにでもある大衆向きの店といった感じで、あえて言えば客には海運関係者が多いのが特徴だろうか。  昼時だというのに大ジョッキをつけて注文する客が多いのも、場所柄の内だろう。  自分もそれにならい、空いていたカウンター席に座り、餃子を二人前と中ジョッキを頼む。 「へい、御待ち!」  食べてみると、ニンニクがよく効いていて食が進む。ビールのつまみには丁度いい。  昼の閉店まで三十分を切りラストオーダーを締め切った処で、手が空いて来たのを見計らって、店主に話しかけてみた。 「この店、随分長いと聞いたんですけど。その辺、詳しく聞かせてもらえませんか?」     
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