幻の餃子

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「ええ、ずっとここでやってますけどね。うちは、雑誌掲載とかは御断りしてるんですよ」  店主はそっけなく答える。取材と勘違いされた様だ。 「ああ、いえ。僕は素人で……」 「ブログとかに書くのも、なるべく御遠慮頂きたいんですけどねえ。そういうの見て、人がわさわさ来ても困るし」  宣伝しなくても客が見込める様な、労働者の胃袋を満たす為の店なので、メインの客層以外にむやみに知られるのはありがた迷惑という事なのだろう。  はっきりと事情を話してみる事にした。 「いえ、終戦直後に、お爺さんが舞鶴の闇市で食べた餃子を、死ぬ前にもう一度食べたいと言ってて。この店がそうじゃないかと思ったんですが」  ”お爺さん”と言ったのは、他の客もいるこの場で、込み入った説明をしたくなかったからだ。老人という意味で使ったのであって、僕の祖父という意味ではない。  僕の説明に店主は手を止め、じっと僕の顔を見て来た。 「休憩時間に、もう一度来て下さい」 「わかりました…… ご馳走様です」  僕は勘定を払い、とりあえず店を出た。 *  *  *  昼の閉店後、午後三時を廻った頃に、僕は再び店を訪れた。 「最初に言っておきますが、当時の餃子をお出しする事はもう出来ません」  店内に通された僕に、店主から出たのは断りの言葉だった。     
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