幻の餃子

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「当時の、というと、作り方が違うのですか?」 「ええ。特に材料です。当時は真っ当な肉なんて使えませんからね。そんな物でも御馳走だった訳ですよ」 「そうですか……」  闇で食肉として出回っていた様な”真っ当でない肉”となると、犬やら猫やらネズミやらという辺りか。  確かに客に出す様な代物ではないが、あえてという事であれば入手も容易だろう。 「戦後、食糧難の時代です。闇市は不足する配給を補う”必要悪”だった事はわかりますよね?」 「ええ、それは勿論」  当時を生きた人の大半が、闇市で売られる食糧で命をつないだのだ。それに従事していた事を責める様な人は、今も昔も殆どいないだろう。  闇市で出店していた経歴を明らかにしている著名人も多くいる位である。今更、恥じる様な事ではないと思うのだが、その辺りは人それぞれだ。むしろ、自分が直接関わっていない分、店のルーツが非合法の商売という事を隠したいと思うかも知れない。 「隠しておきたい過去という事でしたら、触れ回る様な事は決してしないと御約束します。私は、先が短いお爺さんに、思い出の味を食べさせてあげたい。それだけなのです」 「ああ、そういう事ではなくて…… ”特殊肉”というのを御存知ですか?」     
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