幻の餃子

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「親父の代までは、祖父の頃の味を懐かしむ昔馴染みの常連さんがいましたので、裏メニューとしてやってましたが。私の代ではやっていないという訳です」 「そうですか……」 「そちらの事情が事情ですから御話ししましたが、そういう訳ですので御引き取り願えませんか。私は、そっちの筋と関わりたくないのです」 「ではせめて、レシピと肉の入手先だけでも教えて頂けませんか」  店主は少し考え込むと、厨房の奥から古びたノートを持って来て、僕に差し出した。 「これは?」 「初代が書いていたレシピです。その中に、当時の餃子の作り方と、肉の仕入れ先が書いてあります」 「有り難うございます!」  僕は店主の好意に頭を下げたが、彼は深く溜息をついて迷惑顔をした。  非合法な裏メニューの事は、知られたくない過去だったのだろう。あえて話してくれたのは、過去の清算か、それとも闇市時代の味を懐かしむ老人に対する、最後のサービスなのか。 「私に代が変わって十年以上、先方さんとは関わってない物で、今はどうか解りませんよ。そちらは差し上げますから、うちには以後、関わり無い様に御願いします」  僕は、店主に追い出される様に店を後にした。 *  *  *  浜松に戻り、寮の自室でノートを読んでみる。そこには餃子のレシピと、名古屋のとある雑居ビルの住所が書かれていた。     
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