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宮本さんの父親である宮本おじさんには、何度か剣の稽古をつけてもらったことがある。
剣の稽古と言っても、剣道のようなものではない。
「私が教えるのは剣道のようなものではなく、敵ーすなわち魔物を殺すための術であるから、私を殺すべき魔物だと思って稽古に挑むように。また、私も相手をそのように思って稽古をつける。」
初めにそう言って、稽古が始まった。
子供相手でもおじさんは容赦なかった。
体中が痣だらけになることはしょっちゅうだった。
また、稽古に一分でも遅れると稽古は中止になった。
「時間に遅れるというのは、それだけ魔物に攻撃の機会を与えているということ。これが実戦の場合、共に戦う仲間にどれだけ迷惑をかけているかを考えなさい。」
いつもそう言って叱られた。
小さな子供にそこまでさせるのは可哀想だと、彩の母親は祖母に止めるように頼んだ。
「彩自身がやりたいと言って始めたのだから、私がやめさせることはできないわ。それに、あの子はまだ小さいけど、魔術師の道を歩んでいるのよ。」
剣もほろろだった。
おじさんは稽古以外の場面では優しかった。
(あの剣の達人の息子が、稽古したことないとはね。)
おじさんの腕を知っている彩は、腑に落ちないものがあった。
世界は案外、狭かった。
二人は、そう思った。
「あの、なんでここに?」
宮本さんが聞いた。
「あの、私は祖母に頼まれて、人手が足りないと言われたので。あ、あの、ここで会ったことは、会社の人には絶対に離さないで。お願い。」
彩は目の前で手を合わせて頼んだ。
「言わないよ。それはこっちも同じだから。」
「良かった。ありがとう。」
彩はホッとした表情を見せた。
(ちょっと待って。あのおじさんの子供で、しかもこの場にいるということは。)
「あの、もしかして、村正を継いだの?」
「あ、ああ、そうだけど。」
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