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その表情には怒りと憎しみしか見えない。
でも、よく探れば他の感情や思いも彼女は私に対して持っているかもしれない。例えば、ほんの僅かだけれども好意とか…。でも、今はそれを探るだけの余裕が私にはない。
私はなぜ、彼女からこんな目で見下されなければいけないのか?
私はこの人に何をしたのか…?
冷や汗が出てくる。
動揺する気持ちを落ち着かせるために、彩は体をほんの少しだけ、小刻みに動かした。
二人は地面に座っているみたいだ。右手で草のようなものに触れた。昼間のようだ。推測なのは、彩はずっと見つめられているからだ。自分の目で周りの景色を確認したいが、目をそらすと何かをされそうで怖いのだ。しかし、この陽の明るさが、先程よりは彩の思考の回転を良くしてくれた。
彩は記憶を手繰り寄せ始めた。
(えーっと、なんだっけ?まったくおもいだせない。)
その間も、彼女はじっと彩を見つめている。
彩も彼女をじっと見つめた。
(そういえば、この人、誰?)
前から知っているような近親感はあるが、具体的に誰なのかが思い出せない。
もしかしたら、思い出したくないのかもしれない。
誰なのかは分からないが、彼女は両手で彩のクビを包むと同時に、指に力を入れた。
喉が塞がり、空気が喉を通らなくなる感覚に襲われる。
「あんたのせいで、あたしの子は死んだのよ。」
………違う……
殺していない。
何が起こっているのか彩にはわからなかった。
ただ、自分はなにもしていない。
自分の喉を覆う手を、爪で必死にひっかいた。
「なんで……化け物のあんたじゃなくて…、あたしの子が死ぬの?………おかしいじゃない。」
……化…け…物……?
「このまま生きていても、世の中にとって迷惑なだけよ。」
迷惑………?
「殺した罪を償うためにも、死んだほうがいい。」
指に力が入らなくなっていく。
おかあ……さん…
声は出ず、唇がかすかに動くだけだった。
彼女の顔を見ようとしたが、涙で滲んで見えない。
私のせいでおかあさんは苦しんでいて、私がいきていることは 迷惑なんだ。
みんなの迷惑になるくらいなら、もう、生きていたくない。
目の前が暗くなった。
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