第一話 出会い

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宮本さんは目を凝らした。しばらく悩み、そして答えた。 「すみません、ちょっと、わかりません。」 「あぁ、そうですよね。わかんないですよね、コレ。」 彩は宮本さんから伝票を受け取った。 ドアが開き、30代の派遣社員の田中さんが入ってきた。 「あの、田中さん。これ、田中さんが書いた伝票なんですけど、ここの数字なんですが、5ですか?6ですか?」 田中さんは、え、と言って、伝票を見つめた。 「あ、すみません、これ、5です。あの、書き直したほうが良いですか?」 「いえ、手間なので、横線を二本引いて、訂正印を押して、5と横に書いてもらえますか?」 田中さんは、言われたとおりに直し、彩に伝票を返した。 「あの、パソコンの設定が終わったので、僕はかえりますね。」 宮本さんは鞄に荷物を詰めると、足早に退社した。 「あの、宮本さんって、誰に告白されても振ってるんですよね?何かあるんですか?」 田中さんは、声を潜めて言った。 彩は驚き、椅子に座る田中さんの隣にしゃがんだ。 「あの、私は宮本さんのことは、ほとんど知らなくて…。」 「だって、みんな言ってますよ。誰とも付き合わないのはおかしい。ゲイなんじゃないかって。それか、何かの心の病か。」 「えっとですね、私は宮本さんと同期ですが、二週間の新人研修の後に各部署に配属されたんですよ。それで、彼はすぐにベトナムに行って、もう入社から半年は経ちますが彼のことはほとんど知らないので、ゲイとか言われても…。なんと言っていいのか…。」 「そうですよね。突然、すみません。」 変なこと聞いてすみません、と田中さんは彩に謝った。 二階に戻ると、山瀬さんか落ち込んでいた。 見ると、後頭部から肩にかけて、暗いもやのようなものがかかっている。 (あー、これか。) 彩は左手で、虫を払うようにモヤを払った。 隣の席から、怪訝な視線を送られる。 「あの、虫がいたので。もう秋なのに、蚊がいるんですね。」 ははは、と乾いた笑い声を出した。 「あの、すみませんが、私は今日はこれで早退しますので。」 鞄に道具を入れると、そそくさとロッカーに向かった。
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