第一話 出会い

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(まずかった、人前で祓うのは、あれは目立つよね。) 職業の癖が付いているのか、ちょっとした不要なものが人に付いているだけでも、体が動いて思わず祓ってしまう。 (今度はよく考えてやらないと。おばあちゃんに、こういう時はどうすればいいのか聞いてみよう。) 制服から私服に着替えながら、彩は内省した。 (剣士って、どんな人なんだろう。全然、修行してないと言ってたけど。) 会社の前でタクシーを捕まえ、目的地に向かった。 車中で剣士を想像した。 (やっぱり、こういう仕事に使う剣だから、名のある刀鍛冶に鍛えてもらったのかな?それで、さらに滝にうたれて鍛えたとか?天地の気に長く晒すってこともあるか。どこの刀鍛冶だろ?桑名かな?それとも、天田?あ、でも、日本刀とは限らないか、西洋の剣かな?それとも中国?もっと別の地域かな?アフリカとか?) などと想像していると、目的地に着いた。 (でっかい家) 彩は門構えを見て、まずそう思った。 高級住宅街の中でも、敷地は広い。 家全体を囲む塀は、石垣で出来ている。 鉄の格子の門の向こうには、たくさんの樹木があり、さらにその奥に日本家屋が見えた。 彩はインターホンを鳴らした。 しばらくすると、50代と思われるメガネをかけた女性がこちらへ近づいてくるのが見えた。 (うちのおばあちゃんより老けて見える。まあ、うちのおばあちゃんは、もう人間の域を超えているから、何歳なのかわからないけど。) 小さい頃、祖母に年齢を何回か聞いたことがある。 そのたびに、年齢なんて、いちいち覚えてられないわ。忘れちゃったわ。 とニコニコしながら言われた。 祖母の娘である母にも聞いたが、うーん、そうねぇ、わたしが子供の頃よりは老けてるけど…誕生日の時に、バースデーケーキにチョコで年齢を書いたことあったけどね。もしかしたら、嘘の年齢を家族に言ってたのかも。ま、あの人はほとんどがミステリアスだから、聞くだけ時間の無駄よ。放っておきなさい、と諭された。 暖簾に腕押しのようだった。 (まあ、家族の年齢で悩むのは、世界でも私くらいかな?)
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