93人が本棚に入れています
本棚に追加
「お世話になっております。ご苦労さまです。今、開けますね。」
お辞儀しながら、丁寧に挨拶されて、彩も挨拶をした。
「あ、紹介がまだでしたね。私、この家に通いでお手伝いをしております。藤崎と申します。どうぞ、よろしくお願いいたします。」
「あの、木下 彩と申します。こちらこそ、よろしくお願いいたします。」
「さあ、どうぞ、お入りください。皆さん、もうおつきですよ。」
藤崎さんに促されて、彩は中へ入った。
庭には、ところ狭しと木と花が並んでいる。
「ここの庭は、イングリッシュガーデンなんですか?」
「そうなんです。旦那様がイギリスのお庭を気に入って、どの季節にもその季節の花が楽しめるようにと、いろいろな珍しいものを集めたんです。」
「これだけ多いと、管理も大変ですよね。」
「はい。庭師さんに、お任せしています。」
その時、ふわりと桃の香りがした。
(桃の季節じゃないのに、どこから?)
彩は香りの源を探した。
庭は家へと続く赤レンガの石畳の両側に広がっている。右側の庭から香ってくるようだ。
彩は庭の中ほどに佇んでいる木から目が離せなくなった。
女性がいるのだ、木の傍に。年齢は20代に思われる。彼女は立って、彩を見つめている。髪は長く、腰に届くほどだ。桃色の着物を着て、髪には桃の花の簪を差している。
風が吹き、桃の花びらが舞っている。
(綺麗だなぁ。)
彩はその景色に見とれた。
最初のコメントを投稿しよう!