0人が本棚に入れています
本棚に追加
飲酒しての帰りに運転を誤って交差点の中洲に乗り上げ、折悪しく車量観測員としてその地点にいた若い娘を死なせたのは彼だった。
いい加減にしろよ。交通事故なんか自動車が走るようになってから、世界中で毎日起こってるじゃないか。なんで俺がうっかり轢いちまった件だけ目の敵にして被害者の像なんか建てるんだ。おかげで俺はいつも、人知れず苦しんでる。あんまり不公平ってもんだろ。
そうだ。あんな像、撤去してやれ。
車田のりおは真夜中、少女を轢いたその車で乗り付け、渾身の力をふるって少女像を座席に積み込むと人里離れた山中まで運んで捨てた。
しかし、その夜以来――。
カシャッ。
人通りの絶えた深夜なのに。
カシャ、カシャッ。
どこからともなく計数機器を押す音が聞こえてくるようになった。
カシャ、カシャ、カシャ……。
彼も学生時代、バイトでやったことがある交通量調査に使う、金属製のカウンターを押すときの音だ。
カシャ、カシャ、カシャ、カシャ、カシャ……。
音は次第に高まり、数も増してくるようだった。
そうした状態が何夜も続き、彼はすっかり神経をすり減らしてしまった。
身も心もまいり切ったある夜。
カシャカシャ音も鳴り止み、ようやく寝付いたと思ったら、今度は玄関の呼び鈴を連打する音が。深夜なのに。
最初のコメントを投稿しよう!