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黒と黄が弾け、ぶつかり、けたたましい音をばらまく空の下で、綾坂 天乃は見上げることすら出来なくなっていた。
真代 扇は自分のために戦ってくれているのは明らかで、それが堪らなく嬉しくて、辛くて、自分のせいで傷付いていく姿を見ていられなくて。
轟音は止まらない。その都度発生する衝撃波から町を、人々を魔力で守っている隣のレアティアは天乃に言った。
「顔をあげなさい、天乃さん」
目は戦いを繰り広げる二人から離さない。
「彼は、紛れもなくあなただけのために戦っているのです。あなたをそんな風にした精霊を許せない一心で、限られた力をフルに用いて戦っているのです」
「……ッ」
「なのにあなたが目を背けていてどうするんですか。誰よりもあなたのために戦っている彼を見なければならないあなたが見なくてどうするんですか」
「……けど、レアティアさん…」
「愛しているのならなおさら見なくてはなりません。彼の勇姿を、彼の思いを」
「ッ……だけどッ…!!」
震える天乃は呻くように、顔を手で覆い、小さな声を押し潰しながらも吐き出した。
「…もう、見ていられないの…!」
直後、特大の閃光と雷鳴が頭上で響き渡った。
自分たちのすぐ近くの道路に、それは落ちる。
黒焦げになった、真代 扇が。
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