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天乃は扇を見て整った顔を酷く歪める。焦げ臭い匂いはここまで届き、不規則に不気味な痙攣を起こしながらうつ伏せに倒れた扇に意識があるのかどうかなんてわからない。
「……もう、いいよ…」
頬を伝う雫。天乃の目からポロポロと涙が落ち、声を震わせながら小さく首を振る。
「真代くん…もういい、もういいから…」
扇の腕が浮かび、掌をコンクリートに付けて押す。力が入らず体は傾く程度で、コンクリートから離れようとはしない。
歯を食い縛り、額でも地面を押してなんとしてでも立ち上がろうと足掻く。扇はまだ、勝負を諦めてはいない。
「もういいよ真代くん!私はもういいから、一生このままでも構わないからもうやめて!真代くんがそんなボロボロになる必要なんてないわ!」
「…………必、要…なくたって……いい…」
「っ!」
「俺、は………ただ、会長に……」
扇の姿に、言葉に、天乃の顔はくしゃくしゃになる。溢れ出た涙は止まることなく顔を濡らし視界を歪める。扇の姿を歪にしてしまう。
見ていたレアティアも、扇の姿から心を締め付ける感覚を覚えていた。傷付き、酷い有り様になっても戦おうとする姿に目を背けたくなる。
だけど、結果として背けてしまう。
上から感じた高まった魔力。目映い閃光。
扇の真上で、ヴォルトが雷を迸らせた右手を振りかぶっていたのだ。
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