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と、冷たいものが鼻の横に当たったので、上を眺めて、舌打ちをする。 ちぇ、どうやらほんとに降ってきたみたいだぞ。これは嫌だな。 もう傘をさしている人もいるようだ。ちょっとせっかちだな。用意周到とも言えるが。ん、今はあれか、詳細な天気予報図がどこでも手に入るから、こういうのも当たり前なのか。使わねぇからよく知らないや。 人の流れが収まり、右折車が多くなった。もう直ぐ信号の色が変わるサインだ。 もう横の信号は青色の点滅さえ終えて、トマト色に佇んでいる。 俺の隣に立ってる人は、立ちスマホ星人だった。おうおう、たーんとやってなさい。 それから、斜め後ろくらいに、オールバックに金髪の、つまり決め込んだにぃちゃん。 昼間っから色んな人がいるもんだ。そして俺は、ちょっと痩せた普通の男。ひひひ。 「あー。帰りてぇな。長野ちゃーん」 聞かれたら困るので、声には出さない。 山が恋しいのだ。あれに比べりゃスカイツリーから見た川とかビルとかって、正直どーでも良い。 「仕事も少ないしさぁ……」 上手くいかないものだ。憧れて目指した職業だってのに。 青色に信号が変わり、それを知らせる音が聞こえた。ピッポ。 他の人達が次々俺のことを追い抜いていく。なんなの?人生の縮図かよ。ご丁寧にどうも。俺かてわざわざスピードを上げようとも思わないさ。ゆっくりのんびりマイペース。生きてりゃ問題ねーだろが。 「……………っ」 ポツリ、ポツリ、と、また雨が顔に当たる。 でも、これはなんだかそんなに酷くなりはしない気がするな。せいぜい小雨程度ってところだ。こんくらいなら大丈夫だろ。 「ふふふ。軽く怪我でもしたら莫大な保険料取ってバイト辞めて安易に暮らすのだ。はははははは。……ふーう。寂しくなるな」 俺はため息をついた。 もうすぐ着くだろう。こんなにも場所が近いから歩いているのだ。思ったより遠かったら承知しないんだかんな。 「事務所には一応返信入れてあるんだけど……。読んでくれるだろうか。こんな社交辞令的な文句」 書きたくもない文字をつらつら並べただけのメール。自分がこんな無意味な物の羅列を打ち込み、しかも送信してしまう日が来るなんて思いもしなかった。かぁー。人って落ちるところまで落ちるんだねぇ。 雨で濡れてきたからだろう、街は一層黒くなり、けれど、どうしてこんなに明かりは点いて……。 「色々おかしいな」 俺は呟く。
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